大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(ワ)4777号 判決

原告 五味礼三

被告 太田和義

主文

被告は、原告に対し金二十万円及びこれに対する昭和三十一年三月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告が金六万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は、主文第一及び第二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求めた。

二、請求の原因

(一)  被告は、昭和三十一年二月八日原告の斡旋により、訴外藤野宗次郎から金三百万円を返済期同月二十日、返済期に金二十五万円の礼金を支払う約で借り受けた。しかるに被告は、返済期にこれを支払うことができなかつたため、返済期の延期を申し出て、同訴外人は、返済期を同月末日とすることを承諾したが、被告は、その際同訴外人に対し右返済期に更に金五万円の礼金を支払うことを約した。

(二)  被告は、同年三月二日同訴外人に対し右金三百万円を支払つたが、右礼金三十万円を支払うことができなかつたため、原告に対しこれを立替支払うことを委託した。そこで原告は、同日同訴外人に対し右金三十万円を被告のために立替支払つたので、被告は、同日原告に対し、右立替金三十万円のうち金二十万円を同月五日に、金十万円を同月十日に支払うことを約した。しかるに被告は同月十日に支払うべき金十万円を支払つたが、同月五日に支払うべき金二十万円を支払わないから、右金二十万円及びこれに対する支払期の翌日である同月六日以降完済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被告の答弁

請求原因(一)の事実は認める。(二)の事実中被告が金三百万円及び礼金十万円を支払つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告が訴外藤野宗次郎に対し支払うことを約した礼金三十万円は、借用金三百万円に対する昭和三十一年二月八日から同月末日までの利息であるが、内金十万円を既に支払つているから、残金二十万円は、利息制限法超過の利息であつて、元来被告に支払債務のないものである。従つて、原告が被告の委託を受けずにこれを立替支払つたとしても被告に立替金債務を生じない。

四、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因第一項記載の事実は、当事者間に争ない。

原告は、被告の委託に基き、訴外藤野に対し礼金三十万円の立替払をし原告と被告との間に右立替金について準消費貸借が成立したと主張する。

被告が昭和三十一年三月二日同訴外人に対し元本三百万円を返済したことは当事者間に争なく、成立に争ない甲第一及び第三号証に原告本人尋問の結果を綜合すれば、被告が右金三百万円を返済した際、予て支払を約していた礼金三十万円の支払ができなかつたため原告は、被告の承諾を得て訴外棚橋正治から金三十万円を借り受け、右礼金としてこれを訴外藤野に支払つたこと、被告はその頃原告に対し、右立替金三十万円のうち金二十万円を同月五日に金十万円を同月十日に支払うことを約したことが認められる。被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信しない。

右認定事実によれば、原告は、被告の委託により、被告の同訴外人に対する礼金債務三十万円を立替払したものであるから、被告は、原告に対し委任事務処理の費用として金三十万円を返還すべき債務を負担し、原告と、被告との間に右債務について金二十万円を同月五日に金十万円を同月十日に支払う旨の準消費貸借が成立したものというべきである。

被告は被告が同訴外人に対し支払うことを約した礼金三十万円は昭和三十一年二月八日から同月末日までの利息であり、うち金十万円を支払つているから、残金二十万円は利息制限法超過の利息であつて原告がこれを立替払したとしても、被告にこれが返還債務を生じないと主張する。

被告が同訴外人に対し支払うことを約した礼金三十万円は、消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭であるから、利息制限法の適用上利息とみなされるものであるが、元本三百万円に対する右消費貸借の期間である昭和三十一年二月八日から同月末日までの間の同法制限内の利息が金二万五千八百九十円であることは算数上明らかであるから、右金三十万円のうち金二万五千八百九十円を超える部分は、同法制限超過分の利息である、そして、被告が利息金十万円を支払つたことは当事者間に争がないが、右弁済の充当について特別の意思表示がない限り、右金十万円のうち同法制限内の利息に相当する額金二万五千八百九十円は、同法制限内の利息の弁済に充当されたものと認めるのが相当であるから、同法制限内の利息債務はこれにより消滅し、原告が立替払をした残金二十万円の利息は、同法制限超過の利息として無効であり、被告にこれが支払債務はないものである。しかし、同法は、経済上の弱者保護のため設けられたものであるが、債務者が同法所定の制限を超過する利息を任意に支払つたときは、これを保護する必要がないものとして特にこれが返還を請求し得ないことを定めている。右規定の趣旨に徴すれば、本件の如く第三者が債務者の委託に基き制限超過分の利息を任意に支払つた場合は、第三者も債権者に対しこれが返還を請求しえないと同時に債務者も第三者に対し右弁済の無効なことを理由として立替金債務を免れないものと解するのが相当である。このように解しないとするならば、債権者、債務者及び立替払をした第三者間の衡平は著しく害される結果となろう。従つて、これが立替金債務について有効に準消費貸借契約を締結しうるのであるから、被告の右主張は採用しない。

以上により、被告は原告に対し金二十万円及びこれに対する支払期の翌日である昭和三十一年三月六日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う債務があることが明らかであるが、弁済その他右債務の消滅については立証がない。

三、よつて原告の請求を正当として認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村弘雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例